法制審議会民法(相続関係)部会第21回会議資料20-2積残しの論点について⑴(補論)
第4 遺留分制度に関する見直し
1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し
⑵ 甲―3案(受遺者等が現物での給付を求めた場合には,その請求の時に金銭債務の全部又は一部が消滅する(実体法上,受遺者等に目的財産の指定権を与える)という考え方)
① 【甲―2案】①に同じ。
② 【甲―2案】②に同じ。
③ 〔②の指定は,①の請求に係る訴えの第一審又は控訴審の口頭弁論の終結の時までにしなければならないものとする。〕
④ 受遺者又は受贈者が②の請求をした時に,給付する目的財産の価額の限度で,①の金銭債務は消滅し,その目的財産に関する権利が移転するものとする。
⑤ 遺留分権利者は,②の請求を受けた時から2週間以内に限り,受遺者又は受贈者に対し,④の目的財産に関する権利を放棄する旨の意思表示をすることができるものとする。
⑥ 遺留分権利者が,⑤の規定による意思表示をしたときは,当初から④の目的財産に関する権利移転はなかったものとみなすものとする。
(補足説明)
1 指定財産の放棄を認める制度について(「⑤・⑥」)
部会資料20の遺留分制度に関する見直しについては,第21回部会において引き続き議論をすることとされたものの,第20回部会において,委員等から,【甲―3案】を採用するとしても,指定財産の放棄を認める制度を設けるべきではないか,また,部会資料20・42頁において指定財産の放棄制度については理論的な難点があるという指摘があるが,必ずしも請求の放棄を伴うものと構成する必要はないのではないか,という指摘があったところである。
そこで,審議の途中ではあるものの,部会資料20の補論として,指定財産の放棄制度についても案を提示することとし,併せて検討の対象としていただくものである。
2 基本的な考え方
【甲―3案】は,受遺者又は受贈者が,現物給付の意思表示をした際に,目的財産の価額に相当する金銭債務の全部又は一部が消滅するとともに,目的財産に関する権利が遺留分権利者に移転するという考え方であるが,「⑤」の規律は,現物給付の意思表示を受けた遺留分権利者が,その意思表示を受けた時から2週間以内に限り,移転した目的財産に関する権利を放棄することができることとし,また,「⑥」の規律は,その放棄の意思表示があった場合には,「④」の規律に基づく目的財産に関する権利移転の効果のみ..がなかったものとする,すなわち金銭債務が消滅するという効果までは覆らない,とするものである。
このような構成を採用すれば,遺留分権利者が不要なものを押しつけられるというリスクを回避することができるとともに,遺留分権利者が金銭債権の全部又は一部に係る請求権を放棄するという構成を採用する必要はなくなり,請求の放棄に条件を付することができるか否かという理論的に困難な問題は回避することができるように思われる。
なお,部会資料20・42頁でも検討したとおり,このような規律を設ける場合には,指定財産の放棄の時的限界の規律を設けるとともに,第三者保護規定の要否を検討する必要がある。そして,指定財産の放棄の時的限界については,権利関係の安定性を図る観点からはできる限り短い期間であることが望ましいところ,指定された財産が不要か否かはさほど時間を要さずに判断することができるものと思われることから,今回の提案では,「2週間以内に限り」目的財産に関する権利を放棄することができることとしている。また,このような短期間であれば,遡及効を徹底させ,第三者保護規定を設けないとしても,取引の安全性を害することにはならないものと思われる(注1)(注2)。
以上の点について,どのように考えるべきか。
(注1)なお,相続放棄(民法第915条)も遡及効を徹底させており,相続放棄をするまでの間に放棄をした相続人の債権者が相続財産に権利行使をしたとしても無効であるものと解されている(最判昭和42年1月20日民集21巻1号16頁)。
(注2)遺留分減殺請求に基づく金銭請求訴訟の訴訟構造を考えてみても,「⑤・⑥」のような規律を設けても,審理が複雑化することにはならないものと考えられる。
すなわち,遺留分権利者の金銭請求に対し,受遺者側が現物給付の意思表示をした場合には,それにより金銭請求の全部又は一部が消滅することになるが,遺留分権利者が指定財産の放棄の意思表示をしたとしても,消滅した金銭債権については影響を与えないことから,指定財産の放棄の意思表示の有無は,金銭請求訴訟においては攻撃防御方法にはならないものと整理することができるように思われる(遺留分権利者が,指定財産の引渡し又は移転登記手続請求をしてきた場合に,指定財産の放棄の意思表示の有無が抗弁となるにすぎない。)。