「法制審議会民法(相続関係)部会第23回会議資料23-2補足説明(要綱案のたたき台⑵)」の版間の差分
(→1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し) |
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====1 不動産又は動産に関する物権の承継(「⑴」について)==== | ====1 不動産又は動産に関する物権の承継(「⑴」について)==== |
2017年7月28日 (金) 12:21時点における版
目次
第1 配偶者の居住権を保護するための方策
1 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策
(補足説明)
以下の点に修正を加えたほかは,概ね部会資料22からの変更はない。
1 短期居住権の成立範囲について(「⑴・ア」について)
⑴・ア 短期居住権の内容及び成立要件
第22回部会において,短期居住権の成立範囲を明確に規律すべきであるとの指摘がされたことを踏まえ,相続開始前に配偶者が無償で使用していた部分についてのみに短期居住権が成立することを規定上も明確にした。
2 第三者に使用させる場合の要件について(「⑴・イ・(ア)・b」について)
⑴・イ・(ア)・b 配偶者は,他の全ての相続人の承諾を得なければ,第三者に居住建物の使用をさせることができない。
従前から,配偶者が居住建物を第三者に使用させるためには,「他の相続人」の承諾を要することとしており,ここでいう「他の相続人」は配偶者以外の相続人全員を意味するとの説明をしてきたところであるが,規律上もその点を明確にした。
3 短期居住権の消滅事由について(「⑴・ウ・(イ)」について)
⑴・ウ・(イ) 短期居住権は,その存続期間の満了前であっても,配偶者が〔居住建物の占有を喪失し,又は〕死亡したときは,消滅する
従前から,短期居住権の終了事由として,配偶者が居住建物の占有を喪失したことを挙げてきた。もっとも,短期居住権は,居住建物を無償で使用することができる権利であるが,配偶者が居住建物の占有を喪失し,これを使用していない場合に,その使用の対価を支払う必要がないのはいわば当然であるとも考えられる上,第三者に使用させている場合には,他の相続人の承諾を得ているかどうかにかかわらず,間接占有を有しているものと考えられることから,あえて居住建物の占有喪失を短期居住権の消滅事由として掲げる意義に乏しいように思われる(かえって,これを消滅事由として掲げた場合には,居住建物の返還義務等について特則を設ける必要があるようにも思われる。)。
これらの点を考慮すれば,短期居住権の消滅事由から居住建物の占有喪失を削除することも考えられるが,この点についてどのように考えるか。
4 居住建物の修繕等について(⑴・イ・(エ)について)
⑴・イ・(エ) 居住建物の修繕等
短期居住権については,配偶者が通常の必要費を負担することとし,それ以外の費用は居住建物の所有者の負担として,使用貸借契約に係る民法(以下,平成29年法律第44号による改正後の条文を示すこととする。)第595条と同様の規律としている。一方で,使用貸借契約については修繕義務に関する任意規定が置かれていないが,これは個々の契約に任せられているものであるところ,短期居住権は法定債権であることから,その内容についても法律で規定する必要がある。
この点について,居住建物について遺産分割が行われる場合には配偶者自身も居住建物の共有持分を有しているのが通常であることから,共有物の保存行為に関する民法第252条ただし書の趣旨に照らし,他の相続人及び配偶者のいずれもが単独で修繕権を有することとした。その上で,配偶者には,自ら修繕するか否かにかかわらず他の相続人に対する通知義務を負わせることとしているが,配偶者が必要な修繕をしない場合には,居住建物の価値が損なわれるおそれがあることから,その場合には,その旨の通知もしなければならないこととしている。
この点についてどのように考えるか。
2 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策
(補足説明)
以下の点に修正を加えたほかは,概ね部会資料22からの変更はない。
1 長期居住権の存続期間について(「⑴・ウ及びエ」について)
⑴・ウ 遺産分割協議又は審判において長期居住権を設定するに際しては,その存続期間を定めなければならない。
⑴・エ 遺贈又は死因贈与契約において長期居住権を設定するに際し,その存続期間を定めなかったときは,その存続期間を終身の間と定めたものとみなす。
部会資料22-1では,長期居住権の設定行為においてはその存続期間を定めなければならないとし,遺贈又は死因贈与で長期居住権を設定する場合にその存続期間が定められていないときは,その存続期間を終身の間とみなす旨の規律を設けることを提案した。みなし規定の適用範囲を遺贈又は死因贈与に限ったのは,遺産分割については,先行する一部分割で配偶者が存続期間の定めなく長期居住権を取得した場合,存続期間を終身の間とみなすと財産的評価が高額となり,その後の残部分割の際に流動資産などの財産をわずかしか取得することができなくなるなど,かえって配偶者の不利益になる事態も生じ得ること,遺産分割審判については,裁判所の審判である以上,存続期間の定めがされないことは想定することができないこと等を考慮したものであった。
一方で,この点については,遺産分割協議で長期居住権の存続期間が定められなかった場合でも,黙示的な期間の定めを推認することができる場合が多いように思われるものの,仮に,そのような認定をすることができないときには,長期居住権の設定が無効となるおそれがある。このため,存続期間の定めがないことにより長期居住権の設定が無効になるリスクを回避するという観点を重視すれば,長期居住権については,その取得原因にかかわらず,存続期間の定めがない場合には,これを終身の間と定めたものと推定するという規律を設けることも考えられるところである。この点についてどのように考えるか。
2 居住建物の修繕等(「⑵・カ」について)
⑵・カ 居住建物の修繕等
長期居住権については,配偶者が必要費を負担することとし,居住建物の所有者は居住建物の修繕義務を負わないことを想定していたが,本部会資料では,賃貸借契約に関する民法第607条の2[1]の規定を参照し,修繕等に関する規律(修繕権の有無等)をより明確にすることとした。
まず,長期居住権の存続期間中においても,居住建物の所有者には,自己の財産である居住建物の価値を維持する機会を与える必要があることから,民法第606条第2項と同様に,居住建物の保存に必要な行為をする権利を有し,配偶者はこれを拒むことができないこととした。
一方で,居住建物の所有者が修繕義務を負わないこととする以上,配偶者は自ら居住建物を修繕することができることとする必要があるが,その具体的な規律については,第一次的な修繕権を居住建物の所有者に認める考え方(【甲案】)と,これを配偶者に認める考え方(【乙案】)とがあり得るように思われる。
【甲案】は,民法第615条と同様に,修繕の必要等が生じた場合には,居住建物の所有者の修繕権を実質的に保障する観点から,配偶者に居住建物の所有者に対する通知義務を負わせるとともに,民法第607条の2[1]と同様の要件の下で,配偶者に修繕権を認める考え方である。同条は,居住建物の修繕が居住建物の所有権への干渉という側面を有することを考慮した規定であるとの説明がされているが,【甲案】は,居住建物の所有権への配慮が必要であることは長期居住権の場面も同様であり,この点は修繕義務の有無にかかわらないとの考え方によるものである。
一方で,【乙案】は,居住建物が修繕を要する場合には,配偶者が直ちに居住建物を修繕できることとし,通知義務の範囲もそれに併せて修正した考え方である。すなわち,まず,賃借権では賃貸人が修繕義務を負っているのに対し,長期居住権では居住建物の所有者はそのような義務は負っていないため,居住建物が修繕を要する旨の通知がされたとしても,必ずしも居住建物の所有者による修繕を期待することはできないと考えられること等に鑑み,配偶者に第一次的な修繕権を認めることとしている。そして,配偶者には,自ら修繕するか否かにかかわらず居住建物の所有者に対する通知義務を負わせることとしているが,配偶者が必要な修繕をしない場合には,居住建物の価値が損なわれるおそれが特に高いことから,その場合には,その旨の通知もしなければならないこととしている。
この点についてどのように考えるか。
3 承諾に代わる許可の制度について(「⑵・ウ」について)
⑵・ウ 長期居住権の譲渡等の制限
第22回部会において,委員から,長期居住権が差し押さえられた場合を念頭に,借地借家法第20条(建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可)のような規律の要否を検討すべきであるとの指摘がされた。
この点について,借地借家法上の承諾に代わる許可(借地借家法第19条及び第20条)は,いずれも借地上の建物所有権が移転する場合の借地権に関するものであり,建物賃貸借については承諾に代わる許可の制度は設けられていない。これは,前者については,賃借権等の譲渡及び転貸がされたとしても必ずしも土地賃貸人等の不利益になるとは限らず,また,一方で,建物を流通させる経済的な必要性が高いのに対し,後者においては,誰が賃借人かによって建物の使用方法が相当程度異なり得る上,建物賃借権を流通させる必要性はさほど高くないこと等を考慮したものといわれている。このように,借地借家法においても,借家については承諾に代わる許可の制度が設けられていないことからすれば,建物を目的とする長期居住権についても,これと同様に考えるのが相当であるように思われる。
このため,この点については従前どおりの規律としている。
4 長期居住権の登記手続について(「⑵・キ」について)
⑵・キ 登記請求権
部会資料22-2では,登記義務の履行を命ずる旨の明示がない審判がされた場合にも,配偶者は長期居住権の設定登記を単独で申請することができるのではないかとの説明をしていたところ,この点については,第22回部会において,委員から,登記の共同申請の原則と整合しないのではないかとの指摘がされたところである。
部会資料22-2における当該部分は,長期居住権の設定登記についても,配偶者と建物所有者との共同申請の原則を維持することを前提としつつ,仮に審判の主文において登記義務の履行を命ずる旨が明示されていないとしても,配偶者は,改めて民事訴訟を提起するまでもなく,登記義務の履行を黙示に命じていると考えられる上記審判に基づいて配偶者による登記が可能ではないかという解釈を提示したものであり,共同申請の原則の例外を設ける趣旨ではなかったが,この点については,委員から指摘があったとおり,遺産分割の審判は裁判官によってされるものである以上,殊更にこのような説明をする必要はないようにも思われるところである(注)。したがって,仮に審判の主文において登記の履行を命ずる旨の明示がなかった場合には,原則どおり,民事訴訟を提起して登記義務の履行を命ずる判決を得なければならないとすれば足りるとの考え方もあると思われる。
この点についてどのように考えるか。
(注)長期居住権の設定を命じる遺産分割審判においては,通常,下記のとおり登記手続を併せて命じることになるものと思われる(家事事件手続法第196条)。
「 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
1 配偶者Aに対し,別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)につき存続期間を配偶者Aの終身の間とする長期居住権を設定する。
2 相続人Bは,本件建物の所有権を取得する。
3 相続人Bは,配偶者Aに対し,本件建物につき,第1項記載の長期居住権を設定する旨の登記手続をせよ。
4 (以下略)」
第2 遺産分割に関する見直し等
1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)
(補足説明)
字句等の若干の修正を施したほかは,部会資料22からの変更はない(注)。
(注)なお,ゴシック部分において「(第1・2の規定により長期居住権を遺贈又は贈与した場合を含む。)」とあるが,これは婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他の一方に対し,長期居住権の遺贈又は死因贈与をした場合に,本方策の対象とするものである。
2 仮払い制度等の創設・要件明確化
(補足説明)
字句等の若干の修正を施したほかは,部会資料22からの変更はない。
3 一部分割
(補足説明)
字句等の若干の修正を施したほかは,部会資料22からの変更はない。
4 相続開始後の共同相続人による財産処分
4 相続開始後の共同相続人による財産処分
(補足説明)
相続開始後に共同相続人が遺産について財産処分を行った場合には,その処分を行った者が処分をしなかった場合と比べて利得をするという不公平が計算上生じ得るところ,公平かつ公正な遺産分割を実現するために,何らかの規律を設ける必要性が高いものと考えられ,第22回部会においては,複数の委員から同旨の意見が述べられたところである。なお,相続開始後の財産処分が特に問題になると思われる預貯金の払戻しについては,共同相続人の一人が他の共同相続人の同意を得ることなく預貯金の払戻しをすることは違法であり,他の共同相続人は不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると解する余地もあり得なくはないところ,この場合において,現行法の不法行為・不当利得の解釈として【乙案】と同じ結果が実現できるのであれば新たな規律を設ける必要性は低下することになる。そこで,同部会において,この点について問題提起をして御審議いただいたところであるが,複数の委員から,そのような解釈の可能性もあり得なくはないが,確実にそのような解釈になると考えることはできないのではないかとの意見が示されたところである。また,「第2・2・⑵」にもあるとおり,平成28年12月19日最高裁大法廷決定(以下「本決定」という。)を踏まえ,相続された預貯金について家庭裁判所の判断を経ないでその払戻しを認める方策についても検討されているところ,この方策に基づく適法な払戻しであれば当該権利行使をした者は遺産分割において精算を義務付けられるにもかかわらず(注),この方策に基づかずに払戻しを受けた場合については精算を義務付けられずに不公平な結果が生ずることを是認することは,結果の具体的妥当性等の観点から極めて困難であると考えられる。
他方で,第22回部会では,部会資料22で提案した考え方に対しても,様々な懸念が示されたことから,本部会資料においても,引き続き前回の部会において示された懸念点を中心に検討を加えることとした。
(注)「2・⑵後段」(精算を義務付ける規定)との関係について
第22回部会において,「2・⑵後段」(精算を義務付ける規定)と「4」の規律との関係をどのように考えるべきか指摘があった。この点,「4」において【甲案】を採用した場合には,「2・⑵後段」の規律は不要となるが(その意味で「2・⑵後段」は〔 〕が付されている。),「4」において【乙案】を採用した場合には,「2・⑵」の払戻しを受けた場合の特例(払戻しを受けた者及びその額が客観的に明らかである。)として「2・⑵後段」の規律を設けるということが考えられる。
1 【甲案】について
⑴ 【甲案】(遺産分割案)
共同相続人の一人が遺産の分割前に遺産に属する財産を処分したときは,当該処分をした財産については,遺産分割の時において遺産としてなお存在するものとみなす。
ゴシック部分については,字句等の若干の修正を施したほかは,部会資料22-1からの変更はない。
【甲案】に対しては,第22回部会において,委員等から,①部会資料22-2(補足説明)において,当該処分をした者が第三者であることが事後的に分かった場合には,民法第911条の担保責任の問題として処理され,遺産分割審判が事後的に覆る可能性が高くはないとされているが,当該処分された財産が遺産の大半を占めている場合には,遺産分割審判が覆る可能性があるのではないか,②家庭裁判所の判断と地方裁判所の判断が異なり得ることが前提とされているが,国民にとって分かりにくいのではないか,③審判手続においては,民事訴訟とは異なり,証人尋問等を経て事実認定をするという構造にはなっていないのではないかなどの問題点が指摘されたところである。
まず,上記①の点については,確かに当該処分された財産が遺産の大半を占めている場合には遺産分割審判が事後的に覆る可能性がないとはいえないため,当該処分された財産が共同相続人の一人によって処分されたのか,第三者によって処分されたのか争いがあり,これが遺産のかなりの割合を占めているような場合には,みなし遺産であることの確認を求める訴えを経た上で遺産分割審判をすることになるものと思われるが,他方で,そのような事案については,本規律を適用すべき必要性が特に高いといえるのであるから,当事者等にそのような負担が生じてもやむを得ないとも考えられる。また,上記②の点については,家事審判において適正に事実認定がされている場合には,民事訴訟においてこれと異なる判断がされるということはさほど多くないように思われる。なお,部会資料22・12頁にも記載したとおり,家庭裁判所の遺産分割審判の主文は,例えば「Aに,(既に取得した)預金200万円を取得させる。」となるものと考えられ,このAに取得させるとされた預金200万円が,AではなくBが払い戻したことが事後的に判明した場合には,Aは,Bに対して200万円の不当利得返還請求権を取得することになるが,これはAに預金200万円を取得させるという家庭裁判所の判断自体が民事訴訟において覆るわけではない(相続開始時に遡って当該預金債権(200万円)の帰属をAにするという家庭裁判所の判断を前提にして,その預金債権をBが侵害したからこそ,AはBに対して不当利得返還請求権を取得する。)ものと思われる。さらに,上記③の点については,家事審判においても民事訴訟と同様に三審制が保障されており(家事事件手続法第85条から第98条まで),また民事訴訟法の証拠調べ手続の規定が基本的には準用されるものとされており(同法第64第第1項),必要に応じて宣誓をさせた上で証人尋問・当事者尋問を行うことができるなど,適正な事実認定を行うことができる仕組みが整えられているものと考えられる。
これらの点についてどのように考えるか。
2 【乙案】について
⑵ 【乙案】(償金請求案)
共同相続人の一人が遺産の分割前に遺産に属する財産を処分したときは,他の共同相続人は,当該処分をした者に対し,次のアに掲げる額から次のイに掲げる額を控除した額の償金を請求することができる。
ア 当該処分がなかった場合における民法第903条の規定によって算定された当該共同相続人の相続分に応じて遺産を取得したものとした場合の当該遺産の価額
イ 民法第903条の規定によって算定された当該共同相続人の相続分に応じて遺産を取得したものとした場合の当該遺産の価額
ゴシック部分については,第22回部会における委員の指摘等を踏まえて,字句等の若干の修正を施した他は,変更はない。
【乙案】に対しては,第22回部会において,①具体的相続分の審理が,家庭裁判所と地方裁判所の両方で行われることにより,当事者の負担が増す上,判断も異なり得ることになるが,それでよいのか,②本方策を採用することにより,具体的相続分に権利性がないとされてきた点が変更されることになるのか,仮に変更されることとなるとした場合にその他の分野に大きな影響を与えることになるのではないかといった指摘がされたところである。
まず,上記①の点については,現行法においても生じ得る問題であると考えられる。すなわち,被相続人の遺贈,生前贈与の減殺を求める遺留分減殺請求は訴訟事項であり,その際,特別受益があればその持戻しをした上で遺留分侵害の有無,割合が計算されることになるが,訴訟裁判所は,訴訟事項に関する判断のために必要であれば,特別受益の有無,具体的相続分(割合)を認定し得るのであり,かかる認定が家庭裁判所の専決事項に属するとか,訴訟手続になじまないということはないものと考えられる(最判平成12年2月24日民集54巻2号523頁。平成12年最高裁判例解説79頁参照)。
このように,具体的相続分に関する判断が家庭裁判所と訴訟裁判所とで異なるという可能性は現行法の下でもあり得る問題であって,本方策を導入することによって,新たに生じる問題ではないといえる。また,上記②の点については,本方策を導入することにより,将来的に具体的相続分に権利性があると判例・学説上評価される可能性があることは否定しないものの(注),具体的相続分の認定が訴訟手続において可能であることと,その事実を確認訴訟の対象とすることができるかどうかとは別の問題であるものと考えられる。
そして,確認訴訟の適法要件としては,その対象適格や即時確定の利益を充足することが必要であるから,【乙案】を採用したからといって,必ずしも,遺産分割の前提問題として具体的相続分を確認することは不適法であるという判例(上記最判)が変更されることにはならないように思われる。もっとも,上記判例が変更されることを懸念するのであれば,【乙案】よりも【甲案】を採用した方がその可能性は低下するように思われる。
(注)なお,民法第905条第1項は,共同相続人の一人が,遺産分割前にその相続分を第三者に譲り渡すことができることを前提とした規定となっており,その相続分の意義については,通説は具体的相続分であるものと解している。そうすると,具体的相続分については,現行法の下においても,ある意味,遺産分割前に実体法上譲渡することができる「権利」であるともいえる。
第3 遺言制度に関する見直し
1 自筆証書遺言の方式緩和
(補足説明)
ゴシック部分については,表現を一部改めたところがあるが,実質的な内容について特段の変更はない。
これまでの提案は,加除訂正の場面では財産の特定に必要な事項であっても自書する必要があることを前提としており,本部会資料における規律も従前と同様の理解に基づくものである。しかし,別紙として添付していた財産目録を削除し,修正した財産目録を添付する方法で加除訂正を行う場面を想定すると,仮に新たな財産目録が自書によらないものであったとしても,旧財産目録を新財産目録のとおり訂正する旨の文言が自書されており,かつ,新たな財産目録の全ての頁に遺言者の署名押印がされているのであれば,加除訂正以外の場面と同様,変造等のおそれは低いとも考えられる。そうであるとすれば,遺言の加除訂正の場面でのみ財産目録の自書を要求する必要は必ずしもないようにも思われるところである。
この点についてどのように考えるか。
2 自筆証書遺言の保管制度の創設
(補足説明)
1 各事務を取扱う法務局について
第22回部会では,遺言保管制度に関する各種事務について,いずれの法務局で申請することができるのか明確にすべきであるとの指摘がされた。
この点については,ゴシック部分の「(注2)」にも記載したとおり,ある者が遺言保管制度を利用した事実及び遺言書の画像データについて,全国の法務局からアクセスできるシステムが構築される場合には,原本が必要となる事務(原本の閲覧,原本の返還)以外の事務については,その他の法務局においても申請することができるようにすることができるので,その方向で検討を進めることとしたい。
2 外国語による遺言の取扱いについて
部会資料22-2では,遺言保管制度が対象とする遺言について,少なくとも制度開始当初は,日本語による遺言に限らざるを得ないのではないかとの説明をしたところであるが,第22回部会では,委員から,外国語による遺言も遺言保管制度の対象とすべきではないかとの指摘がされた。
確かに,仮に法務局において遺言書の内容を判読することができないとしても,法務局は保管に係る遺言書が民法第968条第1項の方式で作成された遺言であるかどうかを確認することができればよく,その他の適法性・有効性まで確認すべき義務を負わない以上,申請書(ただし,申請書は日本語に限らざるを得ない)によって,保管を申し出ている書面が日本法に基づく自筆証書遺言であることを確認することができ,かつ,遺言者及び通知すべき相続人等を把握することができるのであれば,必ずしも外国語による遺言を遺言保管制度の対象から外す必要はないものと考えられる。
このため,外国語による遺言についても,遺言保管制度の対象とする方向で検討を進めることとしたい。
3 遺言書の写しについて(「⑹」について)
2⑹ 相続人等は,相続の開始後に,法務局に⑴により保管されている遺言書の原本の閲覧及びその遺言書の写しの交付を求めることができる
自筆証書遺言の保管制度については,部会資料22-1では,保管した自筆証書遺言について,遺言者の死後は,原本の交付を求めることができないこととし,法務局に対し,相続人等は,保管に係る遺言について「正本」を求めることができるとしていた。しかし,保管に係る自筆証書遺言の写しに原本と相違ない旨の法務局の認証を付する取扱いでも,不動産登記等の事務において特に支障がないと考えられるため,特に「正本」を発行する必要性は乏しいものと考えられる。
そこで,相続人等に対して交付する書面については,法務局に保管されている遺言書の内容と同一性を証明する「写し」の交付をする方向で検討を進めることとしたい。
4 遺言書の保管事実の通知時期について(「⑻」について)
2⑻ 法務局は,⑹の請求がされた場合には,相続人等(⑹の請求をした者を除く。)に対し,遺言書を保管している旨を通知しなければならない。
部会資料22-1では,相続人等が法務局に対し,遺言の保管の有無を照会した場合に,他の相続人等に対し,遺言を保管している旨を通知しなければならないとされているところ,遺言の保管の有無の照会の段階では,遺言の存否についてのみ応答することを想定しており,内容の証明まで行うことは想定していない。
このため,保管の有無の照会をする際に,検認の場合と同等の書面(相続人全員を特定する書面)の提出までは不要としつつ,照会者が遺言者の遺言の有無を照会することについて利害関係を有していることを明らかにする書面(遺言者の死亡事実と申出人が相続人等であることを証する書面等)を添付すれば足りることとし,他の相続人等に対しての通知も行わない方向で検討を進めることとしたい。
また,法務局に遺言が保管されていた場合において,相続人等が,原本の閲覧又は写しの交付を求める場合には,一部の者のみが遺言書の内容を知ることとなるところ,公平性や紛争防止の観点から,他の相続人等に対しても通知する必要があることから,検認の場合と同様の書面の提出を求め,他の相続人等に対して通知をする方向で検討を進めることとしたい。
3 遺贈の担保責任
(補足説明)
部会資料22からの変更はない。
4 遺言執行者の権限の明確化等
(補足説明)
遺言執行者の一般的な権限の例示について,以下の点に修正を加えたほかは,
部会資料22からの変更はない。
1 遺言執行者の権限について
⑴ 遺産分割方法の指定がされた場合の遺言執行者の権限
第22回部会において,遺産分割方法の指定がされた場合の遺言執行者の権限に関し,引渡しを対抗要件とする動産についても,遺言執行者に対抗要件具備権限を付与すべきかどうか改めて検討すべきであるとの指摘がされたことを踏まえ,以下検討を加える。
部会資料22では,遺言執行者には原則として対抗要件具備権限があるが,引渡しを対抗要件とする動産については,これを遺言執行者の権限から除外することを提案した。これは,動産の引渡しの迅速な実現のためには,占有者の任意の協力が必要であり,これが望めない場合には,遺言執行者は訴訟を提起しなければならず,同人に相当の負担をかけることになるが,動産の場合には,公示制度が必ずしも十分でなく,遺言執行者にそれだけの負担をかけるだけの意義があるか疑問もあること,動産の引渡しについては,これを遺言執行者の権限としなくても受益相続人が自ら引渡しを求めることができること等を考慮したものであった。
しかしながら,第22回部会においては,かかる規律を設けた場合には,遺言執行者は遺産分割方法の指定の目的動産を受領することも困難になるのではないかとの指摘もされたところである。
そこで検討するに,遺言執行者は,一般的に,遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有するところ,上記規律は,動産については原則として対抗要件を具備させる権限を有しないというだけであるから,上記規律があるからといって,これにより直ちに遺産分割方法の指定の目的動産を任意に受領して,これを引き渡すことがその職務の権限外になるわけではないように思われる。そして,遺言執行者がその職務の過程で受け取った物については,相続人に引き渡す義務を負うのであるから(民法第1012条第2項,第646条第1項),上記のような規律を設けたとしても,遺言執行者が目的動産を任意に受領し,これを受益相続人に引き渡すことができなくなるわけではないように思われる。また,貸金庫内の目的物の返還等の場面においては,遺言執行者に目的物の受領権限を認める必要があるのであれば,遺言書にその旨を明示することによって対応することが可能であることはもとより,貸金庫内の目的物について遺産分割方法の指定がされ,かつ,遺言執行者が選任されているような場合には,遺言者は,第三者対抗要件を具備させるという目的ではなく(対抗要件を具備させることのみを目的とするのであれば,遺言執行者は,貸金庫を有する金融機関に,事後受益相続人のためにこれを占有すべき旨を命ずるだけでも足りることになる。),遺言の実効的な執行のために,受益相続人にこれを直接引き渡すことを遺言執行者の職務として指定したとの解釈(黙示の意思解釈)をすることができる場合も多いように思われる。このような趣旨をより明確にする観点から,遺言執行者の一般的な権限の例示として,現行法と同様,「相続財産の管理」を掲げることとした。
他方で,遺言執行者について,一般的に対抗要件具備権限を認めることとしながら,上記のような理由だけで,動産についてはその例外とすることができるかについては疑問もある。また,遺言執行者の負担については,遺言執行者には就職するにあたっての諾否の自由があり(民法第1007条),動産の引渡権限が加重である場合には就職を拒絶することが可能であること(また,遺言書において指定される遺言執行者は,遺言書の作成段階から関与していることも多く,そのような場合には,権限の範囲について遺言者と事前に調整できること)等からすると,遺言執行者の一般的な権限として,動産も含めた対抗要件具備権限を付与したとしても,必ずしも遺言執行者に加重な負担を負わせることにならないようにも思われる。
これらの点を考慮して,引渡しを対抗要件とする動産についても,遺言執行者に対抗要件具備権限を認めることも考えられる。
これらの点についてどのように考えるか。
⑵ 遺言執行者の通知義務
部会資料23-1では,遺言執行者の就任通知について,「家庭裁判所に選任されたとき」を亀甲括弧としているが,これは,現行法の解釈として,一般に,家庭裁判所に選任された遺言執行者であっても,選任後に諾否の自由があるとの解釈が有力であるところ,かかる解釈を前提とするのであれば,家庭裁判所に選任された遺言執行者についても,遺言執行者が就職を承諾したときに通知義務を課すことで足りることになるからである。
この点についてどのように考えるか。
2 遺言執行者の復任権について
遺言執行者が復任権を行使した場合の責任については,法定代理と同様の規律を設けることとしているところ,第22回部会において,この点に関し,信託法第35条と同様の規律にする必要がないか検討すべきであるとの指摘がされた。
そこで検討するに,信託における受託者が信託事務の処理を第三者に委託した場合の責任については,原則として,選任監督について過失がなければ受託者はその責任を免れるが(信託法第35条第1項・第2項),信託行為において指名された第三者に委託した場合等においては,受託者の責任が更に軽減されている(同条第3項)。他方で,私的自治の尊重の観点から,信託行為の定めにより,第3項の義務については加重・減軽することができるとされている。
このような考え方は,法定代理において復任権を行使した場合の代理人の責任に関する規律とは異なるが,これは,①信託事務の処理の委託は自由にできるわけではなく,信託の目的に照らして相当である場合に限られること,②信託事務の処理を第三者に委託することによって,事務処理の効率化や費用節減等の利益が生ずるところ,これらの利益は受託者ではなく受益者に帰属することから,第三者の選任監督を適切に行うことをもって受託者の職務内容とすることは委託者,受託者及び受益者の合理的意思に適うことを考慮したものであるとされている。
これらの考え方を前提として,遺言において別段の意思が表示された場合の遺言執行者の復任権の行使とその責任の範囲を検討するに,遺言執行者は,原則として,自らの判断により,自由に復任権を行使することができるものの,遺言により別段の意思が表示されている場合には,その意思に従うことになるから,上記の信託法第35条の考え方は,基本的には遺言執行者の場合にも妥当するものと思われる。
もっとも,遺言執行者の職務は,遺言の内容によって様々であるものの,基本的には遺言の執行がその内容となるものであり,遺言執行者の職務が長期にわたって継続することは想定されておらず(大判昭和11年6月9日民集15巻1029頁参照),遺言者の意思としても人的関係を踏まえて遺言執行者を選任している場合が多いと思われること等に鑑みれば,遺言執行者において当然に復任権の行使が予定されているとまではいえず,信託法のような詳細な規律を設ける必要性は高くないように思われる。
このような観点から,本部会資料においても,遺言執行者が復任権を行使した場合の規律については,法定代理の場合と同様,包括的なものにとどめ,遺言者が特段の定めをした場合における責任の範囲については解釈に委ねることとしている。
これらの点について,どのように考えるべきか。
第4 遺留分制度に関する見直し
1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し
1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し
(補足説明)
字句等の若干の修正を施したほかは,部会資料22からの変更はない(注)。
(注)第22回部会における委員の指摘について
第22回部会において,委員から,「⑶・ウ」の規律(指定財産の価額の限度において,金銭債務の全部又は一部が消滅する旨の規律)に関し,指定財産の価額の評価は,遺留分を算定するための財産に算入する価額とは異なるのか,また異なるとして処分価格なのか,などの指摘があった。
この点,受遺者等又は受贈者の現物給付の効果については,受遺者等又は受贈者の指定財産の指定時に生じることとなるから,その財産評価についても,その指定時を基準として行うことになるものと考えられる(現行法上も,遺留分を算定するための財産に算入する贈与等の評価は相続開始時を基準とするものとされている一方,民法第1041条の価額弁償の基準時については,現実に弁償がされる時であり,遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあっては,事実審の口頭弁論終結の時であるものとされており(最判昭和51年3月18日民集30巻2号111頁),両者の評価の基準時が異なるものとされている。)。
また,指定財産の価額の評価を処分価格によるか否かは,指定財産の内容や指定の方法によっても異なるものと考えられる。例えば,指定財産の内容が非公開会社の株式のように取引価格が一般に付けられない財産の場合には,その継続企業価値を基準として算定するか,処分価格を基準として算定するかによってその評価額が異なり得るが,その価額をどのように評価すべきかについては事案ごとの解釈に委ねざるを得ないものと考えられる。もっとも,遺産分割においても,例えば,遺産の総額を算定する際には継続企業価値を基準にするのが相当であるとしても,その財産を保持する意義を有する相続人(例えば,その会社の経営をしている者)が超過特別受益となっており,それ以外の相続人にこれを取得させることとせざるを得ないような場合には,その相続人の取得額を算定する際にその財産をどのように評価するかという問題が生じ得るが,委員指摘の問題も,基本的にはこれとパラレルに考えることができるように思われる(遺産分割の場面で,上記のような場合には処分価格を前提としてその相続人の取得額を算定すべきであるとすれば,現物給付の場面でもこれと同様に解すべきことになるように思われる。)。
2 遺留分の算定方法の見直し
(補足説明)
字句等の若干の修正を施したほかは,部会資料22からの変更はない。
3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し
(補足説明)
字句等の若干の修正を施したほかは,部会資料22からの変更はない。
第5 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し
1 権利の承継に関する規律
1 権利の承継に関する規律
(補足説明)
1 不動産又は動産に関する物権の承継(「⑴」について)
部会資料22からの変更はない。
2 債権の承継に関する規律(「⑵」について)
以下の検討にしたがって,受益相続人が通知をする場合に交付すべき書面の内容を例示し,遺言執行者による通知の方法について修正を加えたほかは,部会資料22からの変更はない。
⑴ 受益相続人において交付すべき書面等
従前から,「遺産分割又は遺言の内容を明らかにする書面」については,その具体的内容を明らかにすべきとの意見もあったが,部会資料21では,民法において上記要件を満たす書面の内容等を過不足なく列挙することは困難であることから,これを法律上限定しないことを提案したところ,特段の異論は示されなかった。
しかしながら,かかる書面は,債務者及び第三者に対する対抗要件として必要なものであるから,できる限り,その内容は明確である必要があるものと考えられる。そこで,以下では,いかなる書面がこれに該当するか
について改めて検討する。
⑵ 「遺言の内容を明らかにする書面」について
遺産分割方法の指定や相続分の指定を原因とする債権の承継においては,特定承継の場合とは異なり,受益相続人以外の相続人は,権利移転義務を負わないため,債権譲渡における譲渡人に対応する者がいない状態に置かれることになる。
このため,遺産分割方法の指定等を原因とする債権の承継について対抗要件主義を適用することとする場合には,民法第467条の規律とは異なる規律を設ける必要があると考えられる。
ところで,債権譲渡において譲渡人による通知が対抗要件となるのは,譲渡人は債権譲渡契約等をした本人であるから,ある程度任意の履行を期待することができ,かつ,それによって不利益を受ける者であるから,その通知は実体的な権利関係を反映している蓋然性が高いと認められるためである。これに対し,遺産分割方法の指定等を原因とする債権の承継の場面では,相続人は遺言をした本人ではないから,必ずしも任意の履行を期待することはできないものと考えられる。
本方策は,遺産分割方法の指定等を原因とする債権の承継については,その原因行為をした当事者は遺言者であること等に鑑み,譲渡人からの通知に代えて,当該債権の承継に関する遺言者の意思が明確に記載された書面の交付を要求することとしたものである。
このような趣旨に照らすと,「遺言の内容を明らかにする書面」に該当するためには,遺言書の原本及び正本のほか,これと実質的に同視することができる書面(=公証人によって作成された謄本や家庭裁判所書記官によって作成された検認調書の謄本(遺言書の写しが添付されているものと考えられる。)など,遺言書の原本の存在及びその内容について疑義を生じさせないような書面)であることを要するものと考えられる。
なお,このように解すると,自筆証書遺言において複数の金融機関に対する預貯金債権等について遺産分割方法の指定がされている場合には,原本で対応することは困難であり,かつ,検認の手続を経ない限り,その謄本等を交付することも困難となることから,迅速な遺言の執行が困難となるおそれがある。もっとも,自筆証書遺言を用いた場合にも,例えば,遺言保管制度を利用した場合には,法務局に複数の謄本の交付請求をすることによって対応することが可能であるものと考えられる。また,後記⑷のとおり,遺言執行者がある場合に,遺言執行者が通知をする場合には,対抗要件としては,書面の交付を不要としていることから,遺言者において,迅速な遺言の執行を望む場合には,予め遺言執行者を選任するなどの方法を選択することになるものと思われる。
⑶ 「遺産分割の内容を明らかにする書面」について
⑵とは異なり,現行の判例によれば,預貯金債権等について遺産分割をした場合については,民法第467条が適用されることになるのではないかと思われるところである。
しかし,他方で,遺産分割協議については相続人の一人が協議において負担した債務を履行しないときでも民法第541条によって解除をすることはできないとした判例(最判平成元年2月9日民集43巻2号1頁)やその判例解説によれば,遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し,その後は協議内容に従った履行問題が残されるのみであり,相続人間でこれを訴求する場合の訴訟物は物権的請求権として構成されるとされている(平成元年最高裁判例解説6頁)。
このような考え方によれば,遺産分割協議が成立した場合に,他の相続人が受益相続人に対して通知義務を負うかどうかは必ずしも明らかでないようにも思われるところであり,また,遺産分割の場合には,通常の債権
譲渡の場合とは異なり,譲渡人と譲受人の対応関係が必ずしも明確でない場合もあり得るところである。
これらの点を考慮して,従前から,遺産分割についても,受益相続人が遺産分割の内容を明らかにする書面を交付すれば,これによって対抗要件を具備することとしてきたところである。
そして,「遺産分割の内容を明らかにする書面」については,上記⑵の場合と同様,遺産分割の内容について疑義を生じさせないものであることを要し,遺産分割協議書の原本,遺産分割に関する調停調書又は審判書の謄
本(いずれについても裁判所書記官が作成したもの)等がこれに該当するものと考えられる。
なお,受益相続人による通知と「遺産分割又は遺言の内容を明らかにする書面」の交付との関係については,部会資料22-1と同様であり,事前あるいは遅くとも承継の通知と同時に当該書面の交付を要し,かつ,それまでに当該書面の交付がなければ,通知の効力は認められないことになる。
⑷ 遺言執行者の通知権限について
部会資料22-1においては,債権を承継した相続人とともに遺言執行者についても,同様の規律に服することとし,遺言の内容を明らかにする書面の交付を要求することとしていたが,遺言執行者は,被相続人の意思に基づいて遺言の内容を実現すべき職務を有する者であり,遺言執行者において自らの法的資格を証明しさえすれば足り,虚偽の通知を防止する必要性に乏しいことから,相続人の全員による通知の場合と同様,単に通知をすれば足りるようにも思われる。
そこで,本部会資料では,遺言執行者が通知をする場合には,「遺産分割の内容又は遺言の内容を明らかにする書面」の交付を要件としないこととしているが,この点についてどのように考えるか。
2 義務の承継に関する規律
(補足説明)
部会資料22からの変更はない。
3 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等
(補足説明)
部会資料22からの変更はない。
第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
(補足説明)
1 請求権者の限定について
本方策における請求権者を一定の身分関係を有する者に限るべきかどうかという点については,第22回部会でも委員等の間で意見が分かれたため,本部会資料でも,引き続き〔 〕のままにしている。
また,第22回部会では,仮に請求権者に限定を加えるとしても,同居要件等を加えることも検討すべきであるとの指摘がされた。しかし,請求権者の範囲を限定するために同居要件を設ける場合には,被相続人と同居していない者が被相続人の住居に通って介護をした場合を適用範囲から除外することの相当性が問題となり,同居の有無という事実関係によって請求権者の範囲を限定する合理性をどのように説明するかという困難な問題が生ずるようにも思われる。
このため,本部会資料でも,請求権者の範囲については,従前どおりの考え方を維持することとしている。
2 寄与要件について
また,従前の部会資料では,相続人に対する金銭請求を認める要件として,寄与分と同様,「特別の寄与」という文言を用いてきた。寄与分における「特別の寄与」は,一般に,寄与の程度が被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度の貢献を超える高度なものであることを意味すると解されてきたが,本方策における請求権者は相続人ではなく,(仮に三親等内の親族との要件を課したとしても,)被相続人に対して民法上の義務を負わない者が含まれる(民法第730条,第752条,第877条参照)。
このため,ここでの「特別の」という文言は,寄与分とは異なり,「通常の寄与」との対比の観点から設けられた要件ではなく,貢献の程度が一定程度を超えることを要求する趣旨のものとして理解すべきことになるように思われる。
このように,本方策における「特別の寄与」が貢献の程度を表す概念であるとすれば,必ずしも「特別の」という文言を用いる必要はなく,「著しい寄与」とすること等も考えられるように思われる。また,第22回部会では,本方策のような規律を設けると,請求権者とされる者が法律上又は事実上介護義務等を負っているかのような不相当なメッセージ性を持つおそれがあるとの指摘がされ,その波及効果について強い懸念が示されたところであるが,仮に「特別の寄与」という要件が「通常の寄与」を想起させるものであり,それによって不相当なメッセージ性を持つおそれがあるということであれば,これを「著しい寄与」などの文言に置き換えることによって,そのような懸念の払拭に努めることも考えられるように思われる。
他方で,「著しい寄与」とすると,「特別の寄与」とするよりも要件が厳格であるかのような印象を与えるおそれもあり,「特別の寄与」に代わる要件を設ける場合にも,その内容については慎重に検討する必要がある。
この点についてどのように考えるか。